戸山翻訳農場

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2017年

2月

27日

探偵                        訳:加門洋祐

キャンドルの火が吹き消されるように、大都市では人間が突然に、そして完全に消えてしまうことがある。あらゆる調査機関――手掛かりを追う猟犬、都市の迷宮を解き明かす刑事、論理と帰納を駆使する安楽椅子探偵――が調査を行う。たいていは、その人の顔を見ることは二度とない。時々、シェボイガンやテレホートの荒野[I]に再び姿を現して、自分の名は「スミス」だとかなんとか言って、ある時までの記憶を、食料品店でのツケも含めて、失っていることがある。また時には、川をさらったり、ウェルダンのサーロインステーキを待っていないかレストランを調査したりした挙句に、隣に引越していただけだったと判明することもある。

このように人が消え去ることは、チョークで描かれた人間が黒板から消されるようなもので、劇演出において最も印象的なテーマの一つだ。

メアリー・スナイダーのケースは、まさに好例で、関心を持たずにはいられないだろう。

中年男のミークスは、姉を捜すために西部からニューヨークに来ていて、その姉、メアリー・スナイダー夫人は五十二歳の未亡人で、密集したテネメントハウス [II]に一年ほど暮らしている。

彼女の住所に着いた時、彼は、姉が一ヶ月以上前に引越したと聞かされた。彼女の新しい住所を知る者は誰もいなかった。

そこを去ったミークスは、街角に立っていた警官に声をかけ、彼の苦悩を説明した。

「私の姉はとても貧しいのです」とミークスは言った「どうしても彼女を見つけ出したいのです。最近、私は鉛鉱山でまとまったお金を作ったので、その資産を姉に分けてやりたいと思っています。広告を使って彼女を探そうにも、彼女は字が読めないので、それも無理なことです」

その警官が口髭を手でさする様子が、あまりに思慮深く頼もしく見えたので、ミークスは、自分の鮮やかな青のネクタイにメアリーが喜びの涙をこぼすのを感じたほどだった。

「キャナル・ストリートの辺りに行ってみろよ」と警官は言った「そして、できるだけデカい荷馬車の御者になれ。あそこでは、いつもババアが荷馬車に轢かれているからな。その中にお前の姉とやらがいるかもな。そうするのが嫌なら、本署に行って、その老婦人様の世話をしてくれそうな私服刑事でも寄越してもらえ」

警察本署で、ミークスはすぐに助力を得られた。広域手配が出され、ミークスが持っていたメアリー・スナイダーの写真のコピーが、各署に配られた。マルベリー署の署長は、マリンズという刑事に事件を任せた。

刑事はミークスを傍らに寄せて言った。

「これは大して難しい事件じゃない。頬髯を剃って、良質な葉巻をポケットに詰め込んで、そしてウォルドルフ [III]のカフェで今日の午後時に会おう」

ミークスは従った。彼はそこでマリンズと会った。二人はワインを飲み、その間、刑事は失踪した女性に関する質問をした。

「さて、」マリンズは言った「ニューヨークは大都市だ。でも、われわれ刑事は仕事をシステマチックにしてきた。二つの方法で、あんたの姉さんを見つけられる。まずは、その内の一つをやってみよう。彼女は五十二歳だったな?」

「少し過ぎていますが」と、ミークスは言った。

探偵はその西部出身者を、ある大手新聞社の広告部に案内した。そこで、彼はこのような「広告」を書いて、ミークスに見せた。

「急募。新作ミュージカルコメディのための魅力的なコーラスガール[IV]百人。終日ブロードウェイ××番通りで申し込み受付」

ミークスは激怒した。

「私の姉は」と彼は言った「貧しくて勤勉で年配の女ですよ。こんな広告が彼女を見つけるために何の役に立つのか、私にはまったく理解できません」

「分かったよ」と刑事は言った。「あんたはニューヨークを知らないようだな。でもこの計画が不満なら、もう一方を試してみよう。そっちは確実に成功する。より多くの代償が必要だけどな」

「費用ならば惜しみません」とミークスは言った「やりましょう」

刑事は彼を再びウォルドルフへ連れて行った。「ベッドルーム二つと応接間のある部屋を取ってくれ」と彼は勧めた「そしたら、部屋のある階に上がろう」

手続きが終わると、二人は四階にある豪華なスイートルームに案内された。ミークスは困惑した様子だった。刑事はビロードの肘掛け椅子に身を沈め、葉巻入れを取り出した。

「言い忘れていたがな、じいさん」と彼は言った「部屋は月単位で取っておいてくれよ。そんなに高くはないだろ」

「月単位ですって!」ミークスは叫んだ。「どういうことですか?」

「ああ、このやり方で勝負するには時間がかかるんだよ。だから言っただろ、より多くの代償が必要だと。春まで待たないといけない。そうすれば新しい街の住所録 [V]が出る。あんたの姉さんの名前と住所もそこにあるはずさ」

ミークスはその刑事とすぐに手を切った。次の日、ある人から、ニューヨークのシャムロック・ジョーンズという有名な私立探偵で、莫大な費用を要求してくるが、謎や事件を解く時に奇跡を起こすという人物に依頼することを勧められた。

その偉大な探偵のアパートメントの控室で二時間も待った後、ミークスは彼との御目通りを許された。ジョーンズは紫のガウンに身を包んで象牙が散りばめられたチェステーブルのところに座り、目の前にある本、「彼等」[VI]の謎解きをしている最中だった。名高い探偵のやつれた、聡明な顔つき、鋭い双眸、そして、言葉が高価なことは、周知のことなので説明する必要もないほどだ。

ミークスは用件を説明した。「費用は、もし成功した場合には、五百ドルです」とシャムロック・ジョーンズは言った。

ミークスはその金額に同意してお辞儀をした。

「あなたの依頼を受諾しましょう、ミークスさん」とジョーンズは、ややあって言った。

「この都市における人々の失踪は、私にとっては以前から興味深い問題です。昨年、ある事件を解決へと導いたことを思い出します。クラーク(Clark)という名の一家が突然、居住していた小さなアパートから失踪したのです。私はその建物を二か月間、手掛かりのために張り込みました。ある日、牛乳配達人と食料店の少年が、商品を上階に運搬する際に、後ろ向きに歩行していることから、私は閃きました。この観察によって獲得したことから帰納法的に考察した結果、失踪していた一家を早々に発見することができました。彼らは廊下の向かい側に引越し、名前をクーラク(Kralc)に変更していたのです」

シャムロック・ジョーンズと依頼人は、メアリー・スナイダーが住んでいたテネメントハウスに向かい、探偵は彼女が住んでいた部屋の中を見せるように要求した。そこは、彼女が失踪して以来、誰にも借りられていなかった。

部屋は狭く、薄汚れて、家具はほとんどなかった。ミークスは憂鬱な気分で壊れたイスに腰掛け、一方の偉大な探偵は、壁や床や数少ない古くてガタついた家具を、手掛かりのために調べた。

半時間の後にジョーンズが集めたのは、一見すると意味が分からない物――安っぽい黒のハットピン、破れた劇場プログラム、それに紙の切れ端で、そこには「Left」という単語と「C12」という文字が書かれていた。

シャムロック・ジョーンズは分の間、暖炉に寄りかかり、頭を手の上に載せて、深く考え込むような表情を知的な顔に浮かべた。やがてそれが終わると、彼は生き生きと叫んだ。

「やりましたよ、ミークスさん。謎は解けました。あなたをお姉さんが住んでいる住居まで一直線に案内できます。彼女の生活について心配する必要はありません、なぜならば、彼女は十分な資産を所持しているからです――少なくとも現段階では」

ミークスは喜んだが、同じくらい疑問にも思った。

「どうして分かったのですか?」彼は感心した口調で尋ねた。

おそらくジョーンズの唯一の弱点は、帰納法によって素晴らしい功績を挙げたというプライドだろう。彼は自分の方法論を披露することで、常に聞く人を仰天させたり喜ばせようとしたりした。

「消去法により」とジョーンズは、手掛かりを小さいテーブルの上に広げながら言った「私はスナイダー夫人が引越した可能性のある場所として、この街のいくつかの地域を除外しました。このハットピンが分かりますか? これでブルックリンが除外されます。ブルックリン橋で電車に乗り込もうとする女性で、座席を確保するためにハットピンを所持しない女性などいません。そして今度は、彼女がハーレムに行ったはずがないことを証明しましょう。このドアの裏側の壁には二つのフックがあります。スナイダー夫人は片方に帽子(ボンネット)を掛け、もう片方にショールを掛けていました。フックに掛かったショールの下端が、汚れの筋を漆喰の壁につけていることに、あなたは気づくでしょう。この筋は明瞭で、ショールには房飾りがないことが判明します。これまでにショールを身に着けた中年女性が、改札口で引っ掛かって後続の乗客を待たせるような房飾りのついていないショールで、ハーレム行きの電車に乗った事例などありましたか? つまり、ハーレムも除外されます」

「以上のことから、私はスナイダー夫人がそれほど遠方に引越していないと結論づけました。この紙の切れ端に、『Left』という語と『C』という文字、そして『12』という数字が見えるでしょう。さて、私は偶然知っているのですが、C通りの十二番地といえば高級賃貸住宅の住所で、その家賃はお姉さんの収入をはるかに上回っています――我々が想定する限りでは。しかしその時、奇妙な形状に丸められた、この劇場プログラムの一片を発見しました。これはどのような意味を伝達しているのでしょうか? あなたは何も分からないでしょう、ほぼ確実に、ミークスさん。しかし、些細なことにも意識を向ける訓練や習慣がある者に対しては、それは雄弁に語るのです」

「あなたは、お姉さんは清掃婦だったと言いました。彼女は事務所の床や廊下を磨いていました。劇場の中でその職務に従事していたと推定しましょう。高価な宝石類を最も頻繁に紛失するのはどこですか、ミークスさん? 劇場です、無論。破れたプログラムを見て下さい、ミークスさん。そこに円形の痕跡が確認できます。それは指輪、おそらく非常に高価な指輪を包んでいたのです。スナイダー夫人はその指輪を劇場での仕事中に発見しました。彼女は急いでプログラムの一片をちぎり、その指輪を慎重に包み、そして胸元に入れました。翌日にそれを処分し、そして増加した資産で、より快適な住処を探したのです。このような連鎖によって、C通りの十二番地という推理に無理はないと判明したのです。そこで我々はお姉さんを発見できるでしょう、ミークスさん」

シャムロック・ジョーンズは、もっともらしい大演説を終えて、成功した芸術家のような笑みを浮かべた。ミークスは感嘆のあまり言葉を失った。彼らは一緒にC通り十二番地に行った。そこは古風なブラウンストーンを使った家で、裕福で上品そうな地域にあった。

呼び鈴を鳴らし尋ねてみても、スナイダー夫人を知る人はいないし、ここ六か月は新しい住人もその家に来ていないと言われた。

二人で歩道へ戻ると、ミークスは姉が住んでいた部屋から持ち出してきた手掛かりを調べた。

「私は探偵ではありませんが」と、彼は劇場のプログラムを鼻に当てながら言った「しかし私が思うに、これは指輪を包んでいた紙というよりも、丸いハッカ飴の包み紙でしょう。それに、この住所のようなものが書かれていた紙片は、私には座席券の切れ端に見えます――十二番、C列、左(left)通路」

シャムロック・ジョーンズは、呆然と遠くを眺めていた。

「私の考察では、ジャギンズに相談するのがいいでしょう」

「ジャギンズとは、どなたですか?」ミークスは尋ねた。

「リーダーです」と彼は言った「新たにできた近代派探偵たちの。彼らの方法論と我々の方法論には差異がありますが、ジャギンズは非常に難解な事件を解決してきたと言われています。彼の元へ案内しましょう」

二人はより偉大なジャギンズを彼の事務所で見つけた。彼は小柄で明るい色の髪をしていて、非常に集中して、ブルジョアをテーマにしたナサニエル・ホーソンの小説 [VII]の一つを読んでいるところだった。

流派の異なる二人の偉大な探偵が、儀式のように形式的な握手を交わすと、ミークスが紹介された。

「事実を述べて下さい」とジャギンズは読書を続けながら言った。

ミークスの話が終わると、より偉大な探偵は本を閉じて言った。

「それでは、あなたのお姉さんは五十二歳、大きなホクロが鼻の横にあり、とても貧しい未亡人で、清掃業によって乏しい生活をしていて、平凡な顔と体形をしている、ということですね?」

「まったく、その通りです」とミークスは頷いた。ジャギンズは立ち上がり、帽子を被った。

「十五分したら」と彼は言った「戻ってきますよ、彼女の今の住所を持って」

シャムロック・ジョーンズは青ざめたが、無理に笑顔をつくった。

その時間内にジャギンズは戻ってきて、手に持っていた小さな紙切れを調べた。

「あなたの姉、メアリー・スナイダーは」と彼は落ち着いた様子で告げた「チルトン通り百六十二番地で見つかるでしょう。彼女が暮らしているのは、五つ階段を上がったところにある廊下の奥の寝室です。その家は、ここからわずか四ブロックです」と彼はミークスに続けて言った。「そこに行って私の述べたことを確認してから、ここに戻ってきて下さい。ジョーンズさんも、あなたを待っていてくれるでしょう、おそらく」

ミークスは急いで向かった。二十分後に戻ってきた彼は、晴れやかな顔をしていた。

「姉はそこにいて、元気でした!」彼は叫んだ。「いくらでも構いません、料金を決めて下さい!」

「二ドルです」とジャギンズは言った。

ミークスが紙幣を置いて立ち去った後、シャムロック・ジョーンズはジャギンズの前に帽子を持って立った。

「余計な質問でなければ」と彼は口ごもりながら言った。「もし、現在も私に好意があれば――やはり嫌って――」

「もちろん、教えますよ」とジャギンズは快活に言った。「私がどうしたか教えましょう。スナイダー夫人の特徴を覚えていますか? 自身の拡大版クレヨン・ポートレートを買うのに週払いにしないような女性を知っていますか?[VIII] その手の工場で国内最大なのは、すぐその角です。私はそこに行き、彼女の住所を本から得ました。以上です」

 



[I] シェボイガンはウィスコンシン州の都市、テレホートはインディアナ州の都市で、どちらもあまり都会的ではない小都市。

[II] 貧困者のための共同住宅。部屋は非常に狭く日当たりも悪かったため生活環境は劣悪で、主に移民が生活していた。

[III] ニューヨークの最高級ホテルの一つ。

[IV] ショーなどの際に大勢で歌ったり踊ったりする女性。胸元や足を露出させる衣装を着ることもあり、通常は若い女性が務める。

[V] 当時の住所録には全員の氏名や住所が記されていた。

[VI] 原題はTheyで、ラドヤード・キプリングの短編小説。男が屋敷に迷い込むが、その屋敷の人々が幽霊だと気づくという話。

[VII] おそらくナサニエル・ホーソンの短編小説Wakefieldのことだと思われる。ある家庭の夫が突然失踪するが、実は失踪した夫は隣に住んでいたという話。

[VIII] 当時、写真をクレヨンで加工した自画像が大流行し、クレヨン・ポートレート工場に写真を送る女性が多かった。しかし、クレヨン・ポートレートは高額だったため、週で分割払いをする人が大半だった。後にある「本」は、未払い人を記録している名簿のようなものだと思われる。