戸山翻訳農場

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2016年

8月

08日

elevated railway 高架鉄道

「八十一丁目――降りる方を先にお通しください」青い制服の羊飼いが叫んだ。

 市民の羊の群れがわれ先にと這って出て、また別の群れがわれ先にと這って入った。カーン、カーン! マンハッタン高架鉄道の家畜車両はガタゴトと走り去った。ジョン・パーキンズは解放された群れといっしょにふらふらと階段を降りた。『振り子』

 『振り子』の冒頭に登場するのが、マンハッタン高架鉄道Manhattan Elevated[i]1868年に最初の路線(9番街線)が開通し、1870年代から本格的に運行されるようになった。やがて、2番街線、3番街線、6番街線もつくられ、この短編の時代には4本の路線がマンハッタンを走っていたことになる。ここでは、81丁目駅が舞台となっていることから、9番街線が描かれているのであろう。81丁目駅は、1879年に新たに開業した駅である。開業を報じた新聞記事[ii]を読むと、当時の街の様子や、人々の反応がわかって面白い。この時代のニューヨーク・マンハッタンは、人口が急増していた。そのため、高架鉄道の混雑もひどいものだったようである。The Pendulumのなかに、「shepherd(羊飼い)」「a flock of citizen sheep(市民という羊の群れ)」「cattle cars(家畜列車)」という表現が出てくるが、1885年、ケーブル鉄道の提唱者ローソン・N・フューラーはつぎのようなことを言っていたそうだ。「高架鉄道は、乗りすぎのため人々は家畜輸送列車に乗せられた羊のように詰め込まれていて、乗ってから降りるまで立ちっぱなしということもよくあります」[iii]。当時、こうしたことは、あちこちで言われていたのかもしれない。また、「自殺カーブ」と呼ばれたものなど、急なカーブがいくつかあり、ちょうどこの短編が書かれたころの1905911日に、9番街線で脱線事故[iv]が起きている。さらに、騒音や煤煙は慢性的な問題で、1904年に地下鉄が開通したことなどもあり、この交通機関は1920年代から徐々に廃止されていった。

(菅野楽章)

 

[iii]

ベンソン・ボブリック『世界地下鉄物語』日高敏、田村咲智訳、晶文社、1994年、p.193